組織球症に続発する中枢神経変性症の
診断・治療エビデンスの創出

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組織球症に続発する中枢神経変性症(Histiocytosis-ND)とは

ランゲルハンス組織球症(LCH)とは

ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)は、単球・マクロファージ・樹状細胞に由来する細胞が全身の組織や臓器に集簇することを特徴とする組織球症(Histiocytosis)の中で、最多の疾患である。LCHという疾患名は1980年代になり初めて登場したものであり、それまでは「好酸球性肉芽腫症(eosinophilic granuloma: EG)」「Hand-Schüller-Christian病(HSC)」「Letterer-Siwe病(LS)」、あるいは「Histiocytosi X」という疾患名が用いられてきた。現在では、LCHの細胞起源は、骨髄中の未熟樹状細胞であることが明らかとなっている。さらに、BRAF V600EなどのMAPK経路の遺伝子異常と、それに伴うoncogene-induced senescenceによる組織へのLCH細胞の集簇と炎症細胞によるサイトカイン・ケモカイン産生による組織破壊の2つの特徴を有しており、現在では「炎症性骨髄腫瘍“Inflammatory myeloid neoplasm”」として認識されている。

詳しくはこちらランゲルハンス細胞組織球症(LCH)について

医療者向け組織球症に続発する
中枢神経変性症(Histiocytosis-ND)について

Histiocytosis-NDに関する報告はこれまでLCHに合併する神経変性症(LCH-ND)に関するものがほとんどであり、LCH-NDについてまとめます。

これまでにある程度明らかになっていること

  • 1発症頻度と発症時期
  • 2発症リスク因子
  • 3分類
  • 4画像所見
  • 5神経症状

これから明らかにしなければならないこと

  • 5神経症状(評価方法)
  • 6バイオマーカー
  • 7治療
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発症頻度と発症時期

LCHには様々な晩期合併症(不可逆性病変)を認めることが知られています。最も有名なのは中枢性尿崩症ですが、その他にも成長ホルモン分泌不全などの下垂体前葉機能低下症を認めることもあります。中枢神経変性症(LCH-ND)も晩期合併症(不可逆性病変)の一つであり、日本の小児LCH症例の追跡調査からはLCH全体の6%ほどに合併することが知られています。

LCHに認められた晩期合併症(不可逆性病変)

LCH-NDはLCH発症から数年経過した後に発症することが知られており、なかにはLCH発症から10年以上経過してから発症することもあります。典型的な症例では、LCHが発症した数年後に頭部MRIで後述するようなLCH-NDに特徴的な画像異常が出現し、その数年後に神経症状が出現します。

LCH-NDの発症時期

LCH-NDの発症までの経過

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発症リスク因子

LCH-NDを合併するリスクとしては以下の3つが挙げられます。

  • CNSリスク部位にLCH病変があった症例
    LCHと診断された時に「中枢神経(CNS)リスク部位」と呼ばれる目の周りや耳、口のあたりにLCHによる病変を認めた症例は、その後に尿崩症や神経変性症などの中枢神経関連晩期合併症(不可逆性病変)を生じやすいとされています。
  • 中枢神経リスク部位

  • 尿崩症を合併している症例
    LCHで最も多い晩期合併症(不可逆性病変)は尿崩症ですが、尿崩症を合併した症例は合併していない症例と比べて、中枢神経変性症を発症しやすい事が知られています。
  • LCH病変にBRAFV600E変異をもっている症例
    LCH診断時の病変でBRAFV600E変異が陽性であった症例は、中枢神経変性症をその後に合併しやすいとされています。
    以上の3つのリスク因子のいずれかを持っている症例では、年1回の頭部MRI検査や神経学的診察を長期にわたって行う事が大切と考えています。
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分類

LCH-NDは頭部MRIの画像異常のみを認める「放射線学的LCH-ND(radiological LCH-ND, rLCH-ND)」と、神経症状を伴う「神経学的LCH-ND(clinical LCH-ND, cLCH-ND)」に分類されます。海外では、rLCH-NDを“LCH-associated abnormal CNS imaging(LACI)”、cLCH-NDを“LCH-associated abnormal CNS symptoms(LACS)”と呼んでいます。

LCH-NDの分類

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画像所見

LCH-NDに特徴的な画像所見は頭部MRIで、「T1強調画像・T2強調画像での左右対称性の異常信号領域が小脳歯状核・基底核・脳幹部に認められる事」です。この画像異常は年単位で悪化し、小脳萎縮や液状変性に至ることが知られています。

LCH-NDの画像所見

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神経症状

LCH-NDの神経症状で最も多く認められる症状は、小脳性運動失調症状です。小脳は体のバランスをとるために重要な役割を果たしており、ふらつきや目眩を伴う歩行障害、箸が使いにくい、文字が書きにくい、呂律が回らないなどの症状が起こります。その他にも、学習障害や性格変化などの高次脳機能障害を伴う事もあり、その症状は非常に幅広いことが知られています。LCH-NDの神経症状の評価にはEDSSスコアやSARAスコアが使用されることもありますが、確立した評価方法は定まっていません。

LCH-NDに伴う小脳症状

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バイオマーカー

LCH-NDの診断はMRIと臨床症状によって行われますが、LCH-NDの診断や治療効果を判定するためのバイオマーカーとして以下のものが期待されています。

  • インターロイキン17
  • オステオポンチン
  • ニューロフィラメント軽鎖
  • 末梢血でのBRAFV600E変異レベル
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治療

現時点ではLCH-NDに対する治療は確立しておらず、以下のような治療がこれまでに実施されています。最近ではBRAF/MEK阻害剤による治療効果が報告されており、今後のLCH-NDに対する治療法の確立が期待されています。

  • 免疫グロブリン療法
  • シタラビンあるいはクロファラビンによる化学療法
  • BRAF/MEK阻害薬
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参考文献

  • 森本 哲, 坂本 謙一, 工藤 耕, 塩田 曜子. 組織球症に続発する中枢神経障害:改善が期待できる中枢神経変性症 臨床神経学/64 巻 2024 年 64 巻 2 号 p. 85-92.
  • 森本哲, 塩田曜子, 坂本謙一, 工藤耕, 今村俊彦, 工藤寿子. Molecular Mechanism of Inflammation and Tumor in Histiocytic Disorders ランゲルハンス細胞組織球症における病態解明と治療の展望. 臨床血液. 2022;63(5):373-382.
  • 坂本謙一、塩田曜子、森本哲、今宿晋作. Langerhans 細胞組織球症関連中枢神経変性症. 日本小児科学会雑誌. 2021; 125; 1524-1535.