組織球症に続発する中枢神経変性症の
診断・治療エビデンスの創出

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忘れたころにLCH:再発と向き合い、見守っていく

スキー場で遊ぶ子供
  • 博士(医学)
  • 小児科専門医
  • 小児血液・がん専門医、指導医
目次

ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis, LCH)は、薬による治療がとても効きやすい病気です。一方で、しばらくしてから再発をする例がとても多く経験されます。そのため、日本でも海外でも、「再発率を低下させること」は臨床試験の大きな課題のひとつに挙げられています。

LCHの再発については、以下のような特徴があります。

  • LCHには、薬がとてもよく効く でも、再発が多い
  • 再発の多くは診断から2年以内 でも、もっと後になって再発することもある
  • 再発は骨が多い 再発は別の骨に生ずることが多い
  • 何度も再発することがある
  • 再発してもまた治る 強い治療は適さない
  • 再発例では晩期合併症が多い

再発する頻度と時期

乳児の皮膚単独病変や、年長児の単一骨病変では、数か月のうちに自然軽快することが多く、それっきり再発せずに経過することがほとんどです。

一方で、そのほかのタイプのLCHの場合、治療によっていったんLCHがよくなったあとに再発する率は、多臓器型ではおよそ30-40%、多発骨型でも20-30%にのぼります。

再発の時期としては、はじめの診断から2年以内が約80%、その後の2-5年が残りの20%ですが、さらに何年も経ってすっかりLCHのことを忘れかけたころに、突然また、ということも時折あります。そのため、治療が終ってから10年以上経っても、何か気になる症状があれば、受診をおすすめします。

以前とはちがう骨に出る

病型にかかわらず、ほとんどの再発は、骨に生じます。そして多くの場合、以前とは全く別の場所に出現してきます。はじめは右腕と腰だったのに、2回目は左の背中が痛い、という様子です。同じ骨であっても、前とはだいぶ離れた場所に溶骨がおきてきます。1か所だけではなく、同時に数か所の骨に再発することも多くあります。

一般のがんでは、もともとあった場所について再発していないか定期的に評価を続けていきますが、LCHは予想外のところに出現してきます。そのため、以前あった病変部だけをずっと見張っていてもダメです。一方、逆に心配だからといって症状もないのにしょっちゅう全身の画像写真を撮って確認していくことは、本人にとって負担が増え、余計な検査をしているだけとなります。

LCHの新しい骨病変のほとんどは、痛みや腫れといった症状で気付かれます。

  • 前とは逆側に頭のこぶが出てきて痛い
  • 首が痛くて横を向けない
  • 立ったり座ったり寝返りすると背中が痛い
  • 歩くときに片足をかばう、抱き上げると泣く

こうした症状の多くは、2-3週間様子をみていると、痛みの部位がよりはっきりとしてきます。その時点で画像検査を行って、痛みのある部位の所見を慎重に評価していきます。

そのほかの再発パターンとしては、いったん消えた皮疹が同じように出現してきた、以前と同じような外耳道炎・中耳炎にまたなった、ということがあります。

このように、日常生活の中で「LCHっぽい症状」にきっとご本人やご家族が気付くことができると思います。そして、「何かあるまでは心配しない」が、LCHとうまく付き合っていく方法のひとつです。

同じ治療がよく効く

LCHは治療が効きやすい病気です。一般のがんとは異なり、またすっかり良くなります。

そして、再発に対しては、「前回と全く同じ治療」が有効なことがほとんどです。

「初回が多臓器型で、骨だけに再発した」という場合には、初めより弱い治療でも有効かもしれません。

再発したからといって、「前の治療が効かなかったのだから、もっと強い治療にしなくては」という考えは、かえって副作用を増やしてしまうだけで、LCHの場合にはあてはまらないことが特徴です。どこにどのように再発したかによって、適した治療を選んでいくことが大切です。

それでも、先の心配はつきないと思います。そんな時は、次のような考え方をおすすめしたいと思います。

「再発という事態は、今後もおこるかもしれないしおこらないかもしれない。はじめに決めた治療期間が終了し、病変がよくなっていったら、むやみに治療を強くしたり長くしたりすることなく、いったん治療をやめて、臓器を休めて免疫力をもとに戻しておく。たくさん遊んで栄養や体力もつけておく。そして、もしも次の再発を生じた場合に、しっかりと治療を行うことができるよう、十分に備えておく。」

ただし、再発例では、病気が治っても後に残ってしまう問題の「晩期合併症」が多くなることがわかっています。そのため、治療の強化はせずに同じような薬を使って治療する、とはいえ、半年から1年ほど、またしっかりと治療を行っていきます。そして、再発部位を治すことだけでなく、なるべく次の再発を防ぐようにLCHを抑え込んでおくことも治療の大きな目標です。

「再発」と「治療抵抗性」はだいぶ違う

消えかけたお腹の皮疹がまた色が鮮やかになり数が増えてきた、一時はかなり縮小した脾臓がまた腫大してきた、といった例があります。こちらは、「治療中の再増悪」「治療抵抗性」と表現され、薬によっていったんはおさまりかけた病気の勢いが再び強くなってきた状態です。今行っている治療が効いていない、このまま続けていても制御できない、という判断がなされ、早期に治療の工夫が必要となります。

再発は何回おこる?いつになったら再発しなくなる?

再発後にふたたび半年や1年の治療を行っても、2回、3回、ときには5回以上も再発を繰り返すことがあります。それでも、毎回治療が効いて骨は良くなり、元気に過すことができています。そこが、一般のがんとは大きく異なるLCHの特徴です。

とても不思議なお話ですが、たくさんの患者さんの経過を眺めてみると、「小さいころはあれほど何度も繰り返したのに、なぜか小学校の高学年ごろには再発しなくなった」、という例をとてもたくさん経験します。

では、いつになったら「LCHは治った」と言えるのかというと、正確なところはわかりません。最後の治療から15年を超えて、久しぶりに頭にこぶができた、というまれなケースにも出会いました。一般のがんでは「5年経ったらもう大丈夫」とよく言われますが、LCHはすこし違う見守り方をしたほうがよさそうです。

いつかLCHの病態が解明されれば、たくさんの不思議に答えられる日がくると思います。また、再発予防の方法や、完全に治ったと証明できる方法が開発されるかもしれません。今は1回1回の再発に対してきちんと治療をしつつ、晩期合併症についても見守っていきたいと思います。

最後に

再発は残念だし、とてもショックな出来事だと思います。でも、再発しやすいのがLCH。そして、再発しても、同じ治療がとてもよく効くのがLCH。すぐに良くなって、きっとまたもとの日常を取り戻すことができます。

「LCHの治療はずいぶん前に終わったけれど、この2-3週間、やっぱりここが痛い」、という時には、ぜひ受診をお願いいたします。


更新日:2019/2/12更新

※本記事は、『いしゃまち 家庭の医療情報』に掲載された記事を移行(内容は一部修正)して公開しております。
※ページ内の図表はメディウィルより許諾を得て掲載